←BACK  ←HOME

:: 信頼 ::




めまぐるしく状況が変化していく中、少しでも身体を休めるため
フェイトたちは宿屋に泊ることにした。
食事もそこそこに、皆それぞれの部屋へと入っていく。
 
フェイト自身も割り振られた部屋へと入り、
装備を外し休むための準備をする。
 
こんなに休んでいる暇はあるんだろうか。
こうやっている間にも多くの人たちが死んでいるはず。
 
夜空を眺めていると、どうしてもそんな想いが浮かぶ。
 
「早く寝ろ。休んでおかないと身体が持たねぇぞ。」
 
隣で眠っていたはずのクリフから声がかかる。
 
「分かってる…。」
 
そう、分かってる。
しかし、頭では理解出来ていても心が追いついていかない。
身体は疲れているはずなのに。
 
眠る気配のない自分の様子に焦れたのか、クリフもベッドから
身体を起こし、窓の外に見える夜空に視線を向ける。
 
「お前が心配してても何も変わりはしねぇ。
 オレたちが出来ることは創造主とやらを倒すだけだ。」
 
「分かってる!でも…。」
 
「何を恐れてる?」
 
「………!」
 
瞳を見つめながらクリフが言った言葉に身体がびくりと震える。
自分では隠していたつもりだった気持ちを見透かされていたらしい。
まだ姿が見えない自分たちを創った創造主への恐怖を。
 
確かに自分たちは強くなってきた。
しかし、その強さが通用する相手なのか。
そして、父さんが残した力が本当に発揮できるのか…。
 
口に出してしまえばその恐怖に自分が負けてしまいそうで…。
 
自分を見つめたまま動くことの出来ないでいるフェイトを
クリフは大きな腕で引き寄せる。
自然とその広く逞しい胸にフェイトは頬を寄せる態勢になる。
 
「聞こえるか?」
 
ドクン、ドクンと力強く聴こえる心音…。
その音は自分のそれと同じくらい速く響いている。
 
「クリフ…お前も…?」
 
「オレだって緊張ぐらいするぜ。どんな闘いになるかも分からない。
 本当にこの闘いで終わるのか…勝てるのかってな。
 正直いって少し怖いかもしれねぇな。」
 
いつも余裕の表情を見せるクリフ。
その余裕にときには怒り、そしてときには安心させられた。
 
クリフでさえもこの闘いに恐怖を抱いている。
その事実で瞳に不安な色を滲ませるフェイトを
しっかりと見つめながらクリフは話を続ける。
自分の、そしてフェイトが感じている恐怖を取り除くかのように。
 
「でも、オレはオレたちが勝つことを信じてるぜ。
 そして、お前を信じてる。」
 
「クリフ…。」
 
はっきりと言い切ったクリフの言葉が心に響く。
先程までフェイトを苦しめていた恐怖感は全てなくなって
いるわけではないが、自分を…クリフを…皆を信じる想いが
それを忘れさせてくれる。
 
「それから…お前はオレが必ず守ってやるって約束しただろ。
 何があってもな。お前もオレを信じろよ。」
 
いやみなくらいに様になるウィンクとともに告げられる。
そんなクリフに素直に頷くのも悔しい気がしてしまう。
 
「信じてるよ。…でも!守られてるだけなんて嫌だからな。
 クリフのことは僕が守る!」
 
「そうか?じゃあ、期待してるぜ。」
 
いつもの勝気な光を取り戻した瞳で見あげてくるフェイトに
ニヤリと笑みを返しながら答えながらも、
やっといつもの彼に戻ってくれたことにほっと一息をつく。
 
 
 
 
「…さてと、それじゃあこのまま一緒に寝るか。」
 
「い、いいよ!もう大丈夫だから1人で寝るよ。」
 
そう言われて、さっきクリフに抱き締められたままだったことに気づく。
慌てて身体を離そうとしたが、その動きをクリフに遮られる。
 
「遠慮するなって。」
 
「遠慮じゃない!」
 
一緒に寝る!寝ない!でしばらく押し問答が続いたが、
もともとの力の差もあり、強引にクリフのベッドへと引きずり込まれる。
そして、そのまま胸元に抱きこまれてしまう。
 
しばらくの間クリフの腕から逃れようと抵抗はしてみたが、
緩むことのないそれに諦め、身体から力を抜く。

「…いい子だ。」

耳元で囁かれる優しい言葉に身体が熱くなる。
 
昔から人とあまり関わらないように日々を過ごしてきた。
もちろん、こんな風に身体を寄せ合うことなんて
相手が女性でもためらいがあった。
なのに、相手がクリフだとこんなふうに
抱き合っていても違和感を感じない。
それどころか体温に安心さえ覚える。
 
こんな風に思えたのはクリフが初めてかもしれない。
何故なのか…?
父や兄のように思ってるのか…それとも…。
自分の気持ちに整理が出来ない。
 
クリフ大きな温かい手が髪を撫でる。
それが気持ちよくて…自然に目が閉じてくる。
さっきまであれだけ眠くなかったのが嘘のようだ。
 
今は考える時間がないけど、この闘いが終わったら…
そのときには自分のこの気持ちをはっきりさせよう。
 
 
 
 
 
 
「本当に世話がやけるぜ。」
 
と言いながらも、クリフは腕の中で静かな寝息を立てる
フェイトを見つめ満足そうな笑みを浮かべる。
 
「オレも寝るか…。」
 
おやすみ、と耳元へと囁けば自分の胸へと頬をくっつけてくる。
そんなフェイトが愛しくて堪らない。
 
明日からはまた闘いに身を投じることになるだろう。
フェイトの、そして自分たちの未来を失くすわけにはいかないから…。
 
 
 
 
 
 

 
 
初めてのシリアスSS…になるかと思います。
クリフに信じてるの一言を言わせたいがために書きました…
が、終わりをどうしようかと悩んでしまいました(^_^;)
やはりシリアスは難しいですね。
でも、たぶんまた挑戦することでしょう。
が、頑張るぞー!
 
 
 
←BACK  ←HOME