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:: 好み ::



幼なじみのソフィアが料理上手ということもあり、
何かのときは彼女にまかっせきりで今までほとんど
料理というものをしたことのなかった。

しかし、エリクールで生活するようになってからというもの
料理をする機会が多くなった。

と、いうのもクリフの作るものは…何とも感想が
言いにくいものばかりであったし…。

ネルはというと、忙しそうに仕事をしているようなので、
料理してもらうのも何だか悪いような気がして、
自然にフェイトが料理をするようになっていた。

今日の昼ご飯もフェイトが作ったもの。

皆、残らず食べ終えた後はネルは部下との連絡会へ…
クリフとフェイトはゆっくりとした時間を過ごしていた。



「さてと、こんなものかな?」

ごそごそと何かを作っていたフェイトの動きがとまり、
クリフの方へと身体を向ける。
その手には小さな器が乗せられていた。

「さっきから何を作ってるんだ?
 さっき昼飯食べたばかりじゃねぇか。」

「アイスクリームだよ。食後のデザートにね。
 初めてにしては結構上手く出来ただろ。」

はいクリフの分、とフェイトに渡された器の中には
少しベージュがかった塊が入っていた。
顔を近づけるとほんのりと甘い香りが漂ってくる。
一緒に渡されたスプーンですくい取って口に入れると
濃厚なミルクの味が広がる。

「なかなかうまいな。」

「そうだろ。」

作ったものを誉められて嬉しくない人間がいるはずもなく、
満面の笑みがフェイトからこぼれる。

その笑顔を見ながら、しばらくの間アイスを食べていたクリフだったが、
何故か手をつけず、じーっとアイスを見つめているフェイトに様子に気づく。

「どうした?食べねぇのか?
 もしかして、自分は嫌いだったのに作ってみたのか?」

「そうじゃないよ。溶けるのを待ってるんだ。」

「溶けちまったらアイスクリームじゃなくなるだろうが。」

「全部溶かすわけじゃないよ。
 少しだけ溶けて、柔らかくなったのが好きなんだよ。」

こんなふうに、とアイスの周りをスプーンですくい取ってクリフに見せる。
生クリームのように柔らかくなめらかであるアイスを
フェイトは幸せそうに口に運び、味わっている。

「なんだかまどろっこしいな。
 さっさと食べた方が美味しくねぇか?」

「これがボクの好みなんだ。
 クリフはさっさと食べればいいだろ。」

自分の好みにけちをつけられたように感じたのか
ぷいっと横を向いてしまった。




その後。
少しすくい取っては溶けかけたアイスを口に運ぶ…
そんなフェイトの様子を見ながら自分の分のアイスを
食べていたクリフだったが、何か良からぬことを思いついたのか
ニヤリとした微笑を口元に浮かべる。


「早く溶かす方法思い付いたぜ。」


フェイトが持っている器を奪い取り、
まだ固いままのアイスを口に放り込む。
そして、フェイトを抱き寄せアイスを含んだまま
フェイトの唇に自分の唇を合わせる。

「んん!」

その行動に驚きフェイトがバタバタと暴れるが、
がっしりとしたクリフの腕で固定されてしまっているので
なかなか身動きが取れないでいる。
どうにかして逃れようと必死になっているフェイトの唇を
こじあけるようにクリフの舌が入ってきた。
それと共にクリフによって程よく溶かされたアイスが入ってくる。
口内を動く舌がアイスを…そして、フェイトを味わうかのように
ゆっくりと動き回る。
長いあいだ重ねあわされる唇…。
フェイトにアイスを食べさせる為の行為がいつのまにか
クリフにフェイトが食べられているような錯覚に陥る。


「…柔らかくてうまかったろ?」


そんな台詞とともにクリフの唇から解放されたフェイトであったが、
先程までの激しい行為のせいで息が上がり言葉が出ない。
ようやく落ち着きを取り戻し顔を上げると、口の端についた
アイスを舐め取りながらニヤリと微笑むクリフの姿が目に入る。
その仕草に先程までのキスを思い出し、身体が熱くなる。


「…おいしい、おいしくないの前にこんなことされたら
 味なんかわかるはずないだろ!」

「そうか?それならもう1回…」


顔を紅くしながら怒るフェイトを再び引き寄せようとしたクリフだったが、
何度も同じ手にひっかかるフェイトではなく…。
引き寄せられる寸前で避け、しかもアイスの器を思いっきり
クリフのにむかって投げつけてやった。

「クリフの馬鹿野郎!!!」

という言葉と共に…。



* * *



「…アイスクリームってこんなに柔らかかったかい?」

夕食後に差し出されたデザートを食べたネルがフェイトに尋ねる。

「それは『なめらかアイス』っていうんです。
 普通のアイスクリームよりとろけた感じにしてみたんです。
 その名前で特許も申請してるんですよ。」

「ふーん。」

「美味しくなかったですか?」

興味深げにアイスを見つめるネルの様子に不安になるフェイト。

「いや、美味しいよ。初めて食べる触感でなかなか良いんじゃないかい。」

「よかった。僕としてはこの柔らかいのが好みなんですよね。
 クリフはこれ余り好きじゃないみたいですから、
 いっぱい食べて下さいね。」


にっこり笑いそう答えるフェイトであるが、
言葉の端々にはなんとなく刺々しさが漂っている。
不審に思って辺りを見渡すネルの視線の先には顔に痣を作り、
ひきつった笑いを返しているクリフがいた。

――― また何をしたんだか…。

まぁ、なんとなく想像はつくけどね…

やれやれ…といった風にため息をつく。
しかし、この2人のことに口を出せば
大変な目に遭うことは分かりきっている…
ということが今までの旅で身に沁みているネルである。
ただ静かにアイスを口に運び、美味しさを堪能するのであった。



ちなみにこのフェイト特製の『なめらかアイス』
売り出されるとともに爆発的な人気が出たらしい。





なんだか私が書くクリフェイってクリフがちょっかい出して
フェイトが怒るというパターンになってきてしまってますね。
今度はもうちょっとイチャイチャしたものを書きたいです!


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