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 小さなライバル!?


いろいろと時間がかかってしまったが、ようやくシランドへと辿りついた。
緑に囲まれたその街は外から見てもとても美しいことが分かる。

「それじゃ、行こうか。」

きゅー!

顔をまっすぐと前に向け、街の方へと歩き出したフェイトの足元に
不思議な声と共に何かがぶつかった。

視線を下へ向け、その何かを確かめてみると、
ピンク色の小さな生き物が仰向けになってバタバタと足を動かしていた。
どうもフェイトの足にぶつかり転んでしまったらしい。

「ご、ごめん!大丈夫かい?」

慌ててその生き物の身体を抱き上げ、怪我がないか手で確かめる。
どうやら怪我はなかったらしく、そのことにほっと安心する。

きゅ、きゅと小さく鳴きながら顔をプルプルと動かす様子は
とても可愛らしく、その様子につい微笑がこぼれる。

「何だぁ?こいつ?」

後ろから来ていたクリフが不思議な生き物を抱くフェイトの手元を覗き込む。

「分からない。けど、可愛い子だね。」

人の言うことが分かるのであろうか。
可愛いというフェイトの言葉に嬉しそうに反応する。

「そうか?なんかおかしな顔してねぇか?」

そんなクリフの言葉には「ぷきゅー!!」と抗議するような声を出し、
フェイトの腕の中でじたばたと暴れだす。
こんな小さな身体でクリフに蹴りを入れようとしているらしい…。

「わわっ!危ない!」

必死に動きを止めようとしていたフェイトだったが、
思っていたよりもこの可愛い動物の力が強かった…。
綺麗な弧を描いてクリフの胸へと飛び込んでいった。

きゅーー!!

さすがのクリフもこの動物がこんな素早い動きをするとは
思っていなかったらしく、1発目の蹴りをくらってしまった。

「うわ、こいつ何しやがる!!」

さらにクリフへと蹴りを入れようとする小さな身体を腕にとり、
気持ちを落ち着かせるよう頭を撫でてやる。

「クリフがひどいこと言うからだろ。こんなに可愛いのに…」

ねぇ?とフェイトが腕の中に居る子に微笑みかけると、
少し怒りが収まったのか動きが静かになる。
が、

「素直に感想を述べただけじゃねぇか…」

という、クリフの言葉でまたしても機嫌を損ね、
この可愛い生き物が怒りモードにはいる。

きゅ!きゅ!

「…て、こいつまた暴れだしやがったぞ!」

また自分がこの闘いを止めなければならないのか…
と、おもったとき、

「何遊んでいるんだい…。早く城へ行くよ。」

呆れた声で1人と1匹(?)を止めたのは、このシランドまで
フェイトとクリフを案内してきたネルだった。
女王に謁見する為に城へ向かって歩いていたのだが、
付いてきている筈の男どもがいないことに気付き、
戻ってきたようである。
そのことに少し怒っているのか、ぴりぴりした雰囲気を
まとっている。

「あ、すみません。今行きます。」

ケンカを始めようとしていた1人と1匹もネルの様子に
やばいと感じたらしい。
先ほどまでの戦闘モードはどこへいったのか、
どちらも何事もなかったかのように大人しくなる。

「それじゃあ、行くよ。」

ネルのその言葉にフェイトもクリフも再び歩き始める。

「じゃあね。本当にごめんね。」

ちゅっ。

下に降ろす前に腕の中の可愛い生き物に軽くキスをし、
再度城へと向かうネルの後へと続いた。


***


気持ちを改めて、シランドへの門をくぐり抜けると、
そこには木々と解け合う綺麗な城下町が広がっていた。

歩く人々の表情は穏やかで、日々の暮らしに幸せを感じていることが分かる。

そんな風景を目に入れながら、先に歩くネルの後を追うように
女王の待っているという城へと向かう。

「少しの間だけ待っててくれねぇか?
 こいつとちょっと話したいことがあってな。」

歩こうとするネルに向かってクリフが声を掛けた。

「何だい?今さら何かの相談かい?」

「…まぁな。いいか?」

「少しだけだよ。なるべく早くしてくれると助かるんだけどね。」

「分かってる。5分で戻ってくるから心配すんな。」

そう言うと、フェイトの腕を掴み街の中へと入っていく。
そして、路地の奥で足を止め、

「どうしたんだ?クリフ?」

今までにない表情で自分を見つめてくるクリフに対し、
首をかしげながら問いかける。

「…!!」

突然に抱き寄せられ、唇を奪われる。
クリフとのキスはべつに初めてではない。
というか、最近ではいつものこと…になってしまってはいるが、
こんな街中でクリフがキスをしてきたことは一度もなかった。

「んぅ…。」

激しく吸い上げられる度に快感で身体が震える。

「…ク…リフ…?」

どのくらいキスされていたのか…
舌を軽く噛まれた後、クリフの唇が離れる。
キスの余韻のせいか、少しねだるような甘くかすれた声になってしまう。
そんな自分の声に気づき恥ずかしくなる。

「さて…と、戻るか。」

さきほどまでの激しいキスなどなかったかのように、
くるりと身体の向きを変え、ネルの待つところへ戻ろうとする。

「な、何なんだよ!いきなりキスしておいて説明もなしなのか!」

勝手に連れ出し、勝手にキスをしておいて…
勝手にネルの元に戻ろうとするクリフに腹が立ち、
その背中に向かって叫ぶ。

「クリフ!!」

自分の問いかけを無視して歩き出そうとする男へもう一度叫ぶ。
と、こちらを振り返ることはしないものの答えが返ってくる。

「ちょっとしたくなっただけだ…。」

「したくなったって…何でいきなり…?」

たまに悪戯にキスをすることもあったが、
それは2人きりでいるときだけであって、
大事な場面ではそんな色っぽい雰囲気を出すこともなかった。
何故、こんなときに…?
そう考えていたフェイトがあることに気づく。

「まさか、あの子にキスしたからなのか?」

思い当たるのはあのピンク色の可愛い生き物を腕から下ろす際にしたキス。
あのクリフが嫉妬?しかも、あんな可愛い生き物に?
そんなバカなことがと思いながら問いかけてみるが、
肯定するかのようにクリフからの答えが返ってこない。

「だって、あれは別に…キスでもなんでもないだろ?」

しどろもどろに言葉を口にするフェイトの方へと向きなおるクリフ。

「相手が動物で可愛くてもキスはキスだろ。
 誰とでもキスするんじゃねぇ。」

不機嫌そうにそう言いながらも、その表情は心なしか
照れているような感じである。
そんなクリフを見るのは初めてであった。

言われていることは普段であれば反発するような内容であるが、
好意を持っている人から嫉妬されての言葉…
と、思うと嬉しくて幸せに感じるから不思議である。

フェイトは嬉しさを隠し切れない表情でうん、と頷きながら
クリフの元へと走りより、そのまま2人並んで
ネルの元へと歩き始めるのであった。




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以前、ゲームクリア後のページにあった嫉妬するクリフです。
ちょっと大人げないですが、たまにはこんなクリフも良いかな〜
と書いてみました。



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